5人に一人。
これは厚生労働省が予測として発表している2025年/65歳以上の認知症の人の割合です。
認知症は他の病気とちょっと違います。
まず、街を歩いていても「あの人がそうだ」と目に見える病気ではありません。それに加えて、病気=認知症であることが診断で分かったとしても「早く分かって良かったね!」って有り難がられる病気でもないです。
そんな、身近な病気でありながら、どう接していいか?ちょっと分からない認知症に対して、力になってくれる仕組みがあります。「認知症カフェ」です。
こんかいは国立市の認知症カフェを運営する、福島さん、南保さん、二階堂さんにインタビューしてきました。
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福島夕夏さん
介護福祉士。国立市の「在宅療養なんでも相談室」で相談員を務める。国立市の認知症カフェの明るい雰囲気の中心にいる人。認知症の方々との触れ合いは、面白い、楽しい、と笑顔で話してくださったのが印象的。
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南保小代子さん
看護師。「国立市在宅療養なんでも相談室」相談員。認知症カフェでは介助が必要な参加者の方々に看護師というスキルを活かして対応されています。
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二階堂悠馬さん
精神保健福祉士。認知症カフェでは全体の司会進行などを務める。物腰柔らかく、とても話しかけやすい方。「国立市在宅療養なんでも相談室」相談員。
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成田竣
大手企業に所属しながらMEETSHOPで修行中の24歳。趣味は音楽ライブ。毎年20回はライブに参加。ハマっていることはラジオにお便りを送るハガキ職人。最近はほぼ100発100中で読まれている。青森出身。上京2年目で雪が少し恋しい。寒いのは苦手。
1.認知症ケア先進国・オランダのモデルをお手本に
成田竣
きょうは国立市の認知症カフェにお邪魔しています。
認知症カフェは毎月一回のペースで開催されていますよね。
福島さん
はい。
国立市の認知症カフェは「認知症ケア先進国」と言われているオランダをモデルとしています。
この国立市の認知症カフェは医療法人の「つくし会」が経営をしています。
福島さん
その「つくし会」の新田國夫理事長が、実際に現地オランダまでわざわざ見に行ったんです。
現地オランダのアルツハイマーカフェなどを視察してきました。
成田竣
現地まで!
それっていつの話ですか??
福島さん
2010年ごろの話ですのでもう15年も前ですね。
その当時は2025年問題やオレンジプランなど、認知症のケアに関する啓蒙が社会全体で盛り上がっていました。
<2025年問題とは?>
日本における65歳以上の認知症の人の数は約600万人(2020年現在)と推計され、2025年には約700万人(高齢者の5人に1人、国民の17人に1人)が認知症になると予測されています。
成田竣
認知症に対する意識が日本の社会全体で高まっていた。
福島さん
その通りです。
そんな社会背景のなか国立市の認知症カフェは2012年にスタートしました。
日本で一番最初に生まれました!
…と言いたいところですが(笑)
実は日本では2番目です。
1番目にスタートしたのは京都市、2番目が国立市、という順番らしいです。
南保さん
最近までは1番目だと思ってたんですけどね(笑)
成田竣
1番目でも2番目でもメチャクチャ早いじゃないですか(笑)
政府が「認知症カフェ」の普及に注力し始めたのは2015年くらい。
いずれにせよ2012年ってかなり早いです!
成田竣
認知症カフェのスタート時にはどのような思いがあったのですか?
福島さん
「認知症の方も含めた共生社会を目指していきたい」
という明確な方針がありました。
その想いは今も変わらず持ち続けていますね。
南保さん
実は、、、
「認知症カフェという名前を変えたほうがいいんじゃないか?」
というご指摘を受けることがあります。
認知症っていう名前のせいで敬遠されているのではないか、と。
南保さん
ですが、私たちの考えは違います。
「認知症」という言葉を聞いたとき、我々を含めた一般の方々の頭の中に広がる「認知症に対するイメージ」を変える必要があると思っています。
そういう想いもあって、認知症カフェという名前は変える必要がないと思っています。
成田竣
なるほど。
認知症カフェという名前そのものに意味がある、ということですね。
素晴らしいお考えだと思います!
成田竣
国立市の認知症カフェは、普段どのように運営されているのですか?
南保さん
基本的に月に1回のペースで開催しています。
認知症の方とそのご家族の方を中心として交流の場をご提供させて頂いています。
二階堂さん
参加者の皆さんは親しみを込めて「お茶会」と言ってくれていますね。
成田竣
お茶会!
いいですね~温かい印象がある!
成田竣
これまでの運営で苦労したこととかはありましたか?
南保さん
ありましたね~
以前は、認知症カフェを一般の方にも開放していたんです。
認知症カフェに中に、認知症についての理解を深めるための勉強会やセミナーを組み込んでいました。
南保さん
するとまあ、当たり前のことなんですが、、、
認知症について勉強したい方、意見がある方が多く集まってしまって(汗)
一般の方々が討論をするような場になってしまうということがありました。
福島さん
認知症の方とそのご家族のケアをしたい認知症カフェなのに、、、
認知症以外の方々が議論をする場所になってしまった。
これでは本末転倒だな、と。
成田竣
なるほど。その通りです。
南保さん
そこで、コロナでの休会をはさみ、認知症の方とそのご家族の方を中心としたものに変えたんです。
参加者同士のコミュニケーションに重きを置くことにしました。
成田竣
原点回帰ですね!
南保さん
はい。
プログラムも決まったものを強要するわけではなく、季節にちなんだ話題など、交流のきっかけを提供することを意識しています。
2.布草履(ぞうり)やうどん作りで感覚が「蘇る」
成田竣
認知症カフェの参加者さんとの印象的なエピソードはありますか?
福島さん
たくさんあります!
布草履(ぬのぞうり)を皆んなで作ったときのことは印象的です。
成田竣
布草履(ぬのぞうり)ってあれですよね。
布切れをつかって作るカラフルなやつ。
福島さん
それまで認知症カフェに参加していても、なかなか打ち解けることが出来ない参加者さんがいたんです。
皆さんとのお茶会でも距離感のようなものを感じておられた。
福島さん
ところが布草履を作るワークショップでは率先して楽しんでいただいて。
きっと手先を動かすことが昔からお好きだったんでしょうね。その感覚が蘇ったのだと思います。
最終的には皆さんに作り方をレクチャーするまでになってました(笑)
成田竣
なるほど~
体験を通して昔の自分が蘇ったのかもですね。
福島さん
カフェでの出来事を通して参加者の皆さんが変わっていく。
その方の変化を見ることが出来るというのも認知症カフェの良さだと思っています。
南保さん
私にも似たような経験がありますね。
参加者の皆さんと「うどん作り」に取り組んだときのことです。
ご自宅では「危ないから台所に立たないでくれ」とご家族から言われていた方がおられて。
ところが!
うどん作りが始まると台所でテキパキと動き始めて!うどん作りがお得意だったみたいです。
本当にあの時は盛り上がりましたね~(笑)
成田竣
素敵なおはなし!
南保さん
ご自宅ではご家族の心配が先に立ちます。参加者の方々がご自宅で料理をする機会が少なくなってしまうことは仕方がないことです。
でも、認知症カフェでのうどん作りのような機会さえあれば、ほんとはこんなに出来るんです。
言葉は変ですが、、、
「最後まで生きる力」を私たちは見せていただいている。
いつも感動してしまいます。
成田竣
なるほどです。
認知症の方々にはふだんの生活でいろんな制約がある。そりゃそうだなあ、と改めて思いました。
認知症カフェでは参加者の方々がいろんな可能性にチャレンジできる。
それは、生きる力。
ご自身が生きる力を実感できることは、とても素晴らしいことです。
3.自律神経の可視化を通して感じた認知症カフェの可能性
成田竣
今月の認知症カフェではちょっと面白い取り組みをしました。
認知症カフェに参加している皆さんのストレスやリラックスの状態を見てみよう!と。
てか、、、
ストレスやリラックスの状態が見れるって凄いですよね。
しかも日本を代表する大企業である村田製作所さんがそういうことをやっている。凄い(笑)
二階堂さん
最初はすごく壮大なお話に聞こえました(笑)
成田竣
そうですよね~
私自身も最初は「え!そんなことが出来る機械があるの?!」って驚きましたもん(笑)
最初は信じられなかったw
成田竣
でも意外とシンプルで!
私もこんかい初めて勉強しました。自律神経っていうのは「元気の偏差値」なんですよね。
つまり、、、
自律神経が整っていることは「=元気」。
成田竣
で、このその自律神経の状態をこの機械は「自律神経の年齢」という表示結果で示してくれます。
南保さん
年齢で表示してくれるっていうのが面白いですよね。
認知症カフェの参加者の皆さんにも分かりやすい数字。
皆さん楽しんで計測されていましたね。
「私も計測したい!」って列が出来ていて時間が足りないくらい(笑)
福島さん
本当に(笑)
自律神経の計測を通じて様々なコミュニケーションが生まれていましたね。
福島さん
「思ったより疲れているね」
「今日は朝からカレーを作っていたからかなあ」とか。
福島さん
「今日は元気いっぱいみたい!」
「認知症カフェに来たからかも!」とか。
皆さん、楽しそうに自分の計測結果を言い合っておられた。
和気あいあいでしたよね~
成田竣
そうでしたよね~!
私たちが話すスキマがないくらい(笑)
成田竣
でも振り返ると、、、
これこそが認知症カフェらしいのかもしれませんよね。
元気か?元気じゃないか?をみんなに言うっのって恥ずかしいじゃないですか。自分の秘密を教えるのと同じ、というか。
しかも疲労ストレス計では年齢で結果が出てしまいますし(笑)
成田竣
でも、、、
認知症カフェにご参加の皆さんはそこに躊躇がありませんでした。
「私は47歳だったのよ~面白いでしょ!はははは!」
みたいな。
そういう雰囲気や空気感の中で参加者の皆さんがリラックスして楽しめるっていうことそのものが、認知症カフェの本質かもしれないですよね。
二階堂さん
そうなんです。
認知症カフェでは参加者の皆さんが「昔こういうことがあって、、、」とフルオープンで話してくださる。
すると私たち相談員もつい自分のことを話してしまうんです。
話を引き出されているような、そんな感覚です。
コミュニケーションの本質を私たちが教えられているようです(笑)
成田竣
なるほど~
認知症カフェでは、普通なら言おうかどうか?迷ってしまうような自分自身のことも、不思議と喋ることができる。
深いコミュニケーションを躊躇させないような安心感があるのかもですね。
認知症カフェは「安心できる場所」なんですね。
成田竣
こんかいの測定の中での一番の驚きは?
福島さん
そうですね!
やっぱり、、、
98歳のおばあちゃんの自律神経年齢が29歳だったこと!
これには本当に驚きました。
南保さん
この参加者の方は数か月前に骨折されて。車いすに乗られていまして。
「私も計測したい!」っておっしゃった時には少し心配でした。大丈夫かな?とおもって見守っていたのですが、、、
29歳っていう結果を見てとても喜ばれて!
リハビリに一生懸命励んでいること、少しずつ成果が表れ始めていること、また元気に歩けるようになることが目標であること、、、
「もう一度、自分の足で歩きたい」って率直な想いを伝えて下さったんです。
成田竣
そうだったのですね~
私たちも計測をご一緒させていただいたのでよく覚えています。
とてもお洒落でチャーミングなおばあちゃんでしたよね(笑)
成田竣
こんかいの計測を見てみると参加者のほぼ全員が「自律神経の年齢<実年齢」っていう結果。
つまり認知症カフェの参加者の皆さんは自律神経の年齢が若くて元気!
皆さん本当に前向きだなあと。実際に認知症カフェの交流に参加して感じました。
福島さん
そうなんです。
自分の理想や今後のことについて話してくれる方が多くって。
成田竣
認知症カフェでは「安心感」が皆さんの前向きな言葉につながっているのかもですね。
で、前向きな言葉を発することが、元気いっぱいのメンタルにそのまま繋がっていく。
言霊(ことだま)じゃないですけど…まず言葉にして出すことが大切。
成田竣
こんかいの村田製作所さんの自律神経の計測を通して、認知症カフェが大切にしておられることを、改めて理解できたような気がします。
村田製作所さんに「めっちゃ良かったからまた協力してください!」って言っておきます(笑)
福島さん
ぜひ(笑)
村田製作所さんって、、、
私たちの取り組みに賛同していただいて今回ように快くご協力いただいた訳じゃないですか。素敵な会社さんですね。
成田竣
もっと素敵な会社さんになりましょうよって言っておきます(笑)
私たちも認知症カフェの参加者の皆さんに楽しんでいただけるようなことをまた考えたいと思います。
今回はありがとうございました!
ここまでのまとめ
認知症カフェは日本全国のいろんな自治体にあります。国立市の認知症カフェは設立が日本国内でも古く、それゆえたくさんのノウハウや知見をお持ちでした。
「遠いようで身近な病気」である認知症。国立市の認知症カフェの皆さんの取り組みを拝見して、認知症という病気と共存していく社会作りのヒントのようなものを感じました。
「参加者の方々が『蘇る』姿を見ることができるのが嬉しい、楽しい」
認知症カフェ運営の皆さんのこの言葉が心に残っています。また、村田製作所さんのような大企業が今回のような取り組みによろこんで協力してくださったことも印象的でした。
国立市の認知症カフェ
<問い合わせ先>
042-569-6213
( 国立市在宅療養相談室 窓口 )