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日本人の100人に一人は「てんかん」。実は身近すぎた病気「てんかん」について日本トップの専門医にロングインタビューをしてみた。

日本人の100人に一人は「てんかん」。実は身近すぎた病気「てんかん」について日本トップの専門医にロングインタビューをしてみた。

皆さんは「てんかん」についてどんな印象をお持ちでしょうか?

 

「子供の病気でしょ?大人は関係ない」

 

「突発的に痙攣(けいれん)が起こるあれですよね?」

 

「てんかんって分かったら自動車の免許って取れないんでしょ?」

 

そんな認識をお持ちの方が多いように思います。その存在は昔から知ってはいるけど何故か?あまり身近に感じることができない病気——てんかん。

 

今回は日本における「てんかん」治療のトップランナーである新宿神経クリニックの渡辺雅子先生にお話を伺いました。

 

30年以上もこの病気を専門に治療してこられた渡辺先生。

 

渡辺先生の「てんかん」に対するインクルーシブな視点がとても印象的です。

  • 渡辺雅子先生

    渡辺雅子先生

    新宿神経クリニック院長。日本における「てんかん」診療のトップランナー。医学博士。日本てんかん学会名誉会員。日本精神神経学会理事。どうしたら物腰そんな柔らかくなれるんですか?って思わず質問したくなる素敵のカタマリのような先生。

  • 高橋香織

    高橋香織

    OR THIS ONE(オアディスワン)のアートディレクター。「出来ない」って何ですか?出来るまでやったら出来ますよね?と言い放つ剛腕さが魅力。一方、中受に取り組み中の息子に勉強のアドバイスをするも「それってママの意見ですよね?」と言い放たれて凹む繊細さも。

 

 

意外に知られていない「てんかん=脳に関すること」

高橋

渡辺先生はずっと「てんかん」を専門に治療してこられたんですか?

渡辺先生

私は九州地方の国立大学の医学部の卒業をしました。

 

大学で勉強していた時にたまたま読んだ精神科についての本が本当に面白かったんです。

渡辺先生

人間の脳ってすごいな、と。

 

それがきっかけで脳の研究をする分野に進むことになったんです。

高橋

先生、すみません(汗)

 

「てんかん」って痙攣(けいれん)が起こる病気ですよね?

高橋

それって脳じゃなくてカラダの病気じゃないんですか?

渡辺先生

そうですよね。そう思っておられる方はとても多いです。

 

「てんかん」は脳の病気です。

渡辺先生

高橋さんがおっしゃったように「てんかんって…よく分からない病気」と考えておられる方はとても多いです。

<「てんかん」とは?>

 

てんかんは、突然意識を失って反応がなくなるなどの「てんかん発作」を繰り返し起こす病気ですが、その原因や症状は人により様々で、乳幼児から高齢者までどの年齢層でも発病する可能性があり、患者数も100人に1人と、誰もがかかる可能性のあるありふれた病気のひとつです。

 

出典:厚生労働省ホームページより

 

てんかんについてオアディスワンスタッフに説明する渡辺先生のイメージ

渡辺先生

私は8年間、大学の精神科の医局で「てんかん」治療に従事しました。

 

そのあと、静岡県の病院に移って小児科病棟で「てんかん」治療を担当しました。

渡辺先生

これが本当に良かったと思います。

高橋

と、いうと?

渡辺先生

当時の医学界はとても縦割りで。

 

精神科と小児科はまったく違う世界なんです。

渡辺先生

例えば、小児科の先生って注射のときに子供の血管を見つけるのがほんとうに上手いんですよね。

 

精神科から小児科に移ったばかりの頃の私は心の底から驚いたものです(笑)

渡辺先生

同じように小児科の先生は精神科の守備範囲の大人の「てんかん」については知らないことが多いんです。

高橋

なるほど。深いですね。

 

九州地方の大学病院の精神科から静岡県の病院の小児科に移ったことが「てんかん」という病気の治療において、渡辺先生にはとてもプラスになった。

渡辺先生

その通りです。

新宿神経クリニック院長とオアディスワンスタッフがてんかんについて話しているイメージ

てんかんに詳しい新宿神経クリニック院長の経歴をまとめたイメージ

高橋

素人の質問ですみません(汗)

 

「てんかん」の勉強ってどういうことをするんですか?

渡辺先生

「てんかん」についての勉強は大きく3つに分かれます。①脳と発作について患者さんと本から学ぶ、②脳波の見かたを学ぶ、③薬の使い方を学ぶ、です。

高橋

なるほど。

 

渡辺先生おっしゃるように「てんかん」は脳の病気。

 

まずしっかり脳波を見ることが大切になるんですね。

渡辺先生

高橋さんは「脳の病気」とおっしゃいましたよね。

 

私たち専門医から見ると「てんかん」は「脳の性質」という感覚に近いかもしれません。

 

てんかんは脳の性質が一時的に破綻するという感覚に近いかもしれません。脳が本来持っている性質が何らかの理由で乱されて(disturbされて)起こる病気です。

 

医学的に正確な表現を使うと、てんかんは「複雑系である脳の性質に起因した疾患」です。

 

 

脳の性質

その性質が乱される

てんかん

 

 

という感じですね。

 

渡辺先生

「てんかん」は、けいれんや意識消失など、さまざまな発作が起こる場合があります。ただ、その症状が突発的なので、怖い病気と認識されることがあります。

 

でも、あくまで「てんかん」は脳の性質が乱れることで、発作のときのみ極端に出現してさまざまな症状が出る病気です。

 

何らかの理由で乱されている。つまり理由があるんです。

 

患者さんの脳のメカニズムとしっかり対話をすれば2023年の現在ではじゅうぶんに私たちと共存可能な病気だと思っています。

高橋

てんかんは脳の本来持っている「性質」が一時的に妨げられて起こる病気。

 

知らないことばかりです!(汗)

 

勉強になります!

てんかんは脳の病気ではなく脳の特徴と聞いて驚く体質改善専門店オアディスワンスタッフのイメージ

「日中にぼーっとする」→認知症?うつ病?とは限らない

高橋

現在の新宿神経クリニックの開業はいつですか?

渡辺先生

2015年ですから8年前ですね。

高橋

渡辺先生は「てんかん」の周りの世の中の移り変わりをずっと見てこられた。

 

ここ最近の社会の動きについて思うところはありますか?

てんかんに詳しい渡辺先生のいる新宿神経クリニックのイメージ

渡辺先生

二つありますね。

 

まず第一に、「高齢者のてんかん」が増えていること。

 

次に第二に、「てんかん」は医者でも他の病気と間違えるケースがあること。

 

これは私自身も間違えることがあり、気をつけています。

高橋

「てんかん」って子供に多いと思っていました!

 

高齢者の方にも多いんですか?

渡辺先生

おっしゃるように「てんかん」は子供の発症が多いことは昔から知られていました。

渡辺先生

先ほどもご説明したように「てんかん」は、脳の性質の一つ、です。

 

日本が高齢化社会になって私たちの寿命が延びていくと同時に、やっぱり脳も年老いていくんですよね。

 

脳機能も老化が進む。

 

だからやっぱり高齢発症の「てんかん」が増加しているんですよね。

高齢者のてんかんについて説明する新宿神経クリニック院長渡辺先生のイメージ

高橋

高齢者の「てんかん」は子供のそれと比べてどんな違いがあるんでしょうか?

 

先ほどのお話みたく痙攣(けいれん)を起こすケースが多いんですか?

渡辺先生

高齢発症の「てんかん」の特徴は、例えば、一点を見つめてぼーっとしたり、呼びかけても全く反応がなかったり、すごくありふれた症状が多いんです。

高橋

え!!!

 

そんなの普通に見分けがつかないじゃですか!

 

一点を見つめてぼーっとするなんて…例えば認知症と見分けがつかない。

渡辺先生

おっしゃる通りです。

 

高齢発症のものに限らず「てんかん」は他の病気と見分けがつかないケースが多いです。

 

認知症やうつ病と間違われているケースが確かにあります。

渡辺先生

「てんかん」は子供の病気、というイメージが先行していることもあります。

 

何より「てんかん」を専門に診ている先生の数が少ないのです。

 

痙攣(けいれん)などのハッキリわかる症状が発生していない限り、一般のお医者さまは「てんかん」と診断しにくいかもしれません。

てんかんに詳しい新宿神経クリニック院長渡辺先生のイメージ

高齢者のてんかんの特徴について分かりやすくまとめたイメージ

高橋

ということは…脳波をしっかり見れば「てんかん」とわかる?

渡辺先生

その通りです。

 

「てんかん」は脳の性質が何らかの原因で乱されて起こる病気です。

 

脳波を何回もとってしっかり診断すれば分かります。

渡辺先生

そして、、、

 

これは声を大にして言いたいことなんですが(笑)

渡辺先生

「てんかん」は脳の病気の中では薬の治療効果が高いんです。

 

「てんかん」と診断された8割の患者さんは薬を飲めば発作をコントロールできます。普通に日常生活が送れるんです。

 

自動車の免許だって取れますし、さまざまな仕事に就くこともできます。

てんかんの治療法について新宿神経クリニック院長に教わったことをまとめた表イメージ

高橋

なるほど…

 

確かにうつ病や認知症は一度「そうですよ」って診断されるとずっと治療と付き合っていかなければいけないイメージがあります。

 

ところが「てんかん」はそうと分かれば、お薬でしっかりコントロールできる可能性が高い。

高橋

早く正しい診断をしてもらった方がQOL(Quolity of Life:生活の質)の向上という意味でもいいに決まっている。

渡辺先生

おっしゃる通りです。

 

「てんかん」に対する正しい知識が広まる。そして「てんかん」の正しい治療を受ける人が増える。

 

「てんかん」は脳の性質が乱されて起こる病気。私たちは一緒に付き合っていくことが可能なんです。

 

そうなればいいなあ、と思います。

高齢者のてんかんについて詳しい新宿神経クリニック院長渡辺先生のイメージ

 

「あなたは一重まぶただから怖い」って誰も言いませんよね?

渡辺先生

実は「てんかん」についての専門医という立ち位置で以前にNHKの番組に出たことがあるんです。

 

『ためしてガッテン』という番組なんですが…知っていますか?

高橋

知っています!

渡辺先生

番組で「てんかんの症状ってこうなんですよ」って私が説明したんです。

 

痙攣だけじゃなく意識を無くしてボーッとしてたりするのも「てんかん」の可能性がありますよ、って。

渡辺先生

すると(笑)

 

「私もそうじゃないか???」

 

って問い合わせ先の電話が鳴り止まなくなった。

渡辺先生

「渡辺先生!電話が鳴り止まなくて仕事になりません!」

 

って随分と文句を言われました(笑)

NHK「ためしてガッテン」にてんかんについての専門家として出演した新宿神経クリニック院長の渡辺先生のイメージ

NHKためしてガッテンについて説明しているイメージ

高橋

NHKの番組を見て「私もてんかんなのでは…?」って思う人がたくさんいたってことですね。

 

確かに…日中にボーッとしているなんて「私もか?」って思っちゃう!(笑)

渡辺先生

そうなんです。

 

私の病院にもそのNHKの番組を見た方がたくさん来られました。

 

その時に診察した患者さんの実に6割くらいが本当に「てんかん」でした。残りの3割は認知症でした。

高橋

衝撃の事実ですよね。。

渡辺先生

はい。まさに。

 

例えば高齢者の方だと、ご家族が正しい知識を持って「ひょっとして…てんかんかも?」って考えてみることが大切なのかもですね。

「てんかん」について日本トップの専門医渡辺先生とオアディスワンスタッフのイメージ

高橋

渡辺先生が「てんかんは脳の持つ本来の性質が
一時的に破綻して起こる病気」とおっしゃった言葉がとても印象に残っています。

渡辺先生

はい。本当にそう思います。

 

じゃあちょっと高橋さんに質問します。

 

「てんかん」の患者さんの割合って何人に一人くらいだと思いますか?

高橋

う〜ん。。。

 

1万人に一人くらいですか?

 

地方都市に一人か二人くらい。そんなイメージ?

渡辺先生

そう思いますよね(笑)

 

実は100人に一人くらいです。

 

例えば、電車に乗っていたとしたら1両に一人くらいは「てんかん」なんです。

高橋

ほんとですか!!!

てんかんは日本に100人に一人の確率でなると言われていることを説明したイメージ

渡辺先生

こんな話があります。

 

島根県で40年間ずっと小学校で養護教論をしていた方と話したことがあるんです。

 

その方いわく「てんかんの子供は40年間で2人だけ」だったそうです。

渡辺先生

そんなはずないんですよね(笑)

 

周りが気づいていないか、もしくは「てんかん」だってことを隠しているんですよね。

高橋

なるほど。。。

渡辺先生

先ほどもお伝えしたように、100人に一人、なんです。

 

それくらい身近な病気なんです。

 

だから私は「てんかんは脳の性質の一つ」と思うんですよね。

 

脳の性質が何らかの理由で乱されて、発作のときのみ突発的に症状が出てしまう病気なんです。

高橋

日本における「てんかん」治療のトップランナーの渡辺先生の言葉だからこそ重みがありますね。

 

「てんかん」は脳の持つ性質が一時的に妨げられて起こるもの。

 

怖くない。

 

当たり前に、そこにある。

渡辺先生

例えば、発達障害(ADHD)なんかは私たち専門医からすると「脳のありよう」ということが出来ます。

 

だからADHDはドラマチックに治療することはなかなか難しい。

 

例えば「人のありよう」って言ったら、性格や、生き方や価値観、ってなりますよね。

 

人の性格や価値観を変えるのはなかなか難しい。

 

同じように「脳のありよう」であるADHDはドラマチックに変えることは難しいんです。

渡辺先生

一方で、てんかんは治療可能な「脳の性質」「脳の特徴」なんです。

 

例えば「人の特徴」って言ったら、髪型やネイルの色や、メガネをかけているか髭を生やしているか、ってなりますよね。

 

人の特徴は変えようと思えば変えることができる。

 

同じように「脳の特徴」である「てんかん」はドラマチックに治療することができる。

高橋

100人に一人って、、、

 

目が一重か?二重か?のレベルかもしれませんよね。

 

まさに特徴。

 

例えが正しいかは分かりませんが(笑)

渡辺先生

笑、うまく言いますよね。

 

でもおっしゃる通りです。性質なんだから怖くない。

 

一緒に付き合っていくことは可能なんです。

高橋

「おまえは一重まぶただから怖い!」って誰も言いませんもんね(笑)

渡辺先生

はい(笑)

NHK「ためしてガッテン」にてんかんについての専門家として出演した新宿神経クリニック院長の渡辺先生のイメージ

高橋

なんだかもっと渡辺先生のお話を聞いていたい(笑)

 

またお話を聞きにきてもいいですか?

渡辺先生

もちろんいいですよ。

高橋

ああ!嬉しい!

 

話は尽きませんが…今日はこの辺りにしておきます!(笑)

 

本日はありがとうございました!

ここまでのまとめ

日本における「てんかん」診療の最前線を30年以上も走ってこられた渡辺先生。おそらくはブルドーザーのように新しい道を切り開いてこられたはずです。

 

が、そんなことを微塵も感じさせない柔らかい物腰に「先生!また取材にきます!」とファンになってしまいました。(笑)

 

取材記事には書ききれませんでしたが、渡辺先生は日本における「てんかん」の周りに起こったことを30年以上も見てこられました。「てんかん=怖い」と誤解されて社会からバッシングを受けるような時代もあったそうです。

 

てんかんは脳の性質のようなもの。

 

「100人に一人」の確率はもはや病気でもなく特徴みたいなもので、不安や恐れを過剰に感じることではないのだと思います。

 

「ぼーっとするな…」「あれ?おかしいな?」と、疑問に対してハッキリと原因が分かれば不必要な悩みを抱えることもなく、早く診療を開始することで、コントロールして普通の生活を送ることができると多くの人に知ってもらいたいと思いました。

 

「今の若い人たちは『てんかん』について先入観がない」

「そういうのって素敵な時代ですよね」

 

と、渡辺先生はおっしゃいます。

 

渡辺先生はとてもインクルーシブ(inclusive)。

 

医者と患者、障がいのある人とそうでない人、などの区別のない「おたがいさま」な社会になってほしいという先生の言葉がインタビューを終えてからも残っています。

<渡辺先生の問い合わせ先>

新宿神経クリニック
〒169-0073 
東京都新宿区百人町3-21-18 新宿高瀬ビル1F

TEL:080-9709-0442

※電話番号のお掛け間違いにご注意ください

OR THIS ONEディレクター N N

株式会社MEETSHOPの取締役でオアディスワンのディレクター。得意なことは言語化と図式化と整理整頓。オアディスワンでは大手企業との協業や商品開発を担当。とにかく分かりやすく話す人。歩く納得感。兵庫県在住。

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